遺言書

遺言執行者とは? 

こんにちは スタッフの仲田です。

遺言書作成のご相談の際に、「遺言執行者は選任したほうがいいですか?」と質問をいただくことがあります。

遺言執行者とは、遺言者が亡くなった後、遺言の内容を実現するための手続きをする人のことをいいます。
遺言執行者を選任しておかなければ遺言の内容が実現できないわけではなく、遺言執行者が選任されていなくても、相続人全員が協力して遺言の執行を行うことができれば遺言の内容は実現可能です。

しかし、遺言執行者を選任しておけば、遺言執行者が単独で手続きを進めることができるため、相続人の人数が多い場合や相続人の間でトラブルとなりそうな場合などは、遺言執行者を選任するケースも多いです。

今回は、遺言執行者を選任するにあたって質問をいただくことが多い
「遺言執行者となることができる人はどんな人なのか」
「遺言執行者を選任をするためにはどんな方法があるのか」
「遺言執行者ができる具体的な手続きとは何か」
についてご紹介します。

1.遺言執行者となることができる人はどんな人?

遺言執行者は、未成年者・破産者以外は誰でもなることができます。

相続人や受遺者も遺言執行者になることはできますが、他の相続人との間でトラブルとなる可能性も高くなりますので、トラブルが予想される場合は専門家に遺言執行者への就任をお願いするほうが良い場合もあります。
また、法人が遺言執行者になることも可能です。


2.遺言執行者を選任をするためにはどんな方法がある?

「遺言執行者」選任の方法は3つあります。

遺言者本人が遺言書で選任する
遺言者が遺言書に、遺言執行者になってもらいたい人の住所、氏名を書いて、「遺言執行者として選任する」と指定する方法です。

②遺言者が亡くなった後に相続人が家庭裁判所に申し立てて選任してもらう
遺言者が遺言書で遺言執行者を選任しなかった場合には、遺言者が亡くなった後に、相続人が家庭裁判所に申立てをして、遺言執行者を選任してもらう方法です。
申立てができるのは「相続人、受贈者、債権者などの利害関係人」です。

③遺言書の中で第三者に決めてもらう
遺言者が遺言書に、「遺言執行者の選任を〇〇に依頼する」旨を記載しておく方法です。

なお、遺言執行者の人数に決まりはなく、複数選任することも可能です。
また、遺言執行者が先に選任されている場合でも、理由があれば追加選任することもできます。
ただし、複数選任されている場合には、遺言執行は過半数で決めることになりますので注意が必要です。

(注意点)
・遺言執行者が偶数人で過半数にならない場合
たとえば、遺言執行者が3人ならば遺言執行をするには2人以上の賛成が必要です。
しかし、遺言執行者が偶数人だと可否が同じ数になって、遺言執行が進まなくなる可能性があります。 

・遺言執行者を定めていない部分がある場合
遺言執行者Aは不動産についてのみ、遺言執行者Bは預貯金についてのみ権限を有するという内容だったとします。
財産が不動産と預貯金だけであれば問題ないのですが、そのほかの財産については遺言執行者がいないことになってしまい、相続人全員の協力が必要となったり、その財産についての遺言執行者を新たに選任してもらったりしなければならなくなります。


3.「遺言執行者」ができる具体的な手続きとは?

遺言執行者は以下の手続きを行います。

・預貯金払い戻し
・株式の名義変更
・不動産の名義変更
・寄付
・保険金の受取人変更
・子どもの認知
・相続人の排除や取り消し  など

ただし、子どもを認知する場合(婚姻関係のない人との間に生まれた子どもを自分の子どもとして届け出ること)、相続人の排除や取り消しをしたい場合(遺言者に暴力を振るったり、多額の財産も持ち逃げしたりした相続人を相続人にさせないために裁判をおこすこと)は遺言執行者だけに手続きをする権限があるため、遺言執行者の選任は不可欠です。

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せっかく遺言書を作成したのに、遺言執行者を選任しなかったために、遺言の内容が実現されなかったというような残念な結果とならないためにも、専門家と相談し、適切なアドバイスを受けながら、遺言書を作成することをおすすめします。

相続に関する手続きには、書類の作成や署名押印手続きなど手間がかかる作業が多いです。加えて、相続人が複数であったり遠方に住んでいる場合には、書類を揃えるだけでも時間がかかってしまいます。
ですので、遺言執行者を選任することによって、遺言執行者となってくれる人に大きな負担になってしまうのではないか、と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方は、ぜひ私どもにご相談ください。
司法書士法人つかさが遺言執行者となり、遺言の内容を実現するための手続きをいたします。

お気軽にご相談ください。

自筆遺言の落とし穴② ~せっかく書いたのに… 残念な遺言書~

こんにちは。司法書士の岩倉です。

前回に引き続き、「残念な遺言書」となってしまった例を紹介したいと思います。

まず、皆さんに質問です。
「今住んでいるご自宅の、底地の番号ってご存知ですか?」

私たちが普段、いろいろな場面で記載する「住所」、実はこれとは別に、「地番」といって、土地にも役所(国)から指定された番号があるのです。

不動産の仕事をしている人にとっては、この「地番」は馴染みのあるものですが、そうでない人が「地番」を認識し、何かの書面に書くということはほぼありません。
ですから、先ほどの質問に正確に答えられる方はほとんどいらっしゃらないと思います。
というのも以下の2つの理由があるからです。

①「住所」と「地番」では、番号が異なる場合がある
例)同じ場所でも
「住所」・・〇〇市〇〇町3丁目2番1号
「地番」・・〇〇市〇〇町字〇〇100番1

②「住所」は1つですが、「地番」は複数あることがある

①の「住所」と「地番」が異なる場合とは、役所によって「住所」の記載が、「住居表示」されたことで、「地番」と異なる番号が割り当てられた場合です。
1960年代から「住居表示」された「住所」が登場します。
それ以前は、「地番」がそのまま「住所」だったのですが、1つの土地を分裂させたり、複数の土地を1つにするなどした結果、整然と番号をつけていくのが難しくなり、隣り合った土地でも番号が離れてしまった「住所」が生じていました。
そこで、これを解消すべく、役所が新たに番号を付したのです。

この「住所」と「地番」の違いがわからない方が書く遺言は、次のとおりとなります。

「〇〇市〇〇町3丁目2番1号の土地は、妻に相続させる」

少し、残念な遺言書です。
地番は「〇〇市〇〇町字〇〇100番1」ですからね。
ただ、地図で確認するなどして、これが同じ土地であることが特定できるのであれば、登記できることもあります。

ですが、上記理由②の場合、「地番」が複数ある場合はどうでしょうか。
「地番」が複数ある、というと誤解があるかもしれません。1つの土地に割り当てられる番号はあくまでも1つです。
複数、というのは、土地自体が複数あるのです。
一見、家の建っている底地が広い1つの土地のようでも、分裂していて複数の土地になっていることがあるのです(結構多いんです)。

先ほどの遺言で特定できない土地は、妻に相続させることはできません。
とても残念な遺言書です。実際にそのような例がありました。

お手元にご自身で書いた遺言書がある方、いかがですか?
残念な遺言書になっていませんか?

私ども、司法書士法人つかさでは、すでに記載いただいた遺言書のチェックも行っています。
もちろん、これから遺言書を作成したい方のサポートもしています。

せっかく書いた遺言書が無効になってしまわないよう、正しい「終活」をしたいですね。
お手伝いさせていただきますので、ぜひお問い合わせください。

 

 

 

 

 

外国人の遺言作成

2021年8月4日に総務省が発表した「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によると、2021年1月1日時点での日本の外国人人口は281万人だそうです。
昨年は新型コロナウイルスの影響もあってか外国人住民の人口が減少に転じたそうですが、日常生活の中で外国人の方を見かける頻度は年々増えている実感があります。
店員さんが外国人の方ばかりのコンビニや飲食店も非常に多いですよね。
私が学生の頃のアルバイト先にも外国人の方が何人もいました。
話を聞いてみると、それぞれ日本に来た理由は違いましたが、皆が共通して日本での生活が好きだと笑顔で話してくれたのをよく覚えています。

そのように日本のことを気に入って暮らしている外国人の方々の中には、遺言を作りたいと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際、外国人の方が遺言を作成せずに相続が発生すると、日本人の相続と比べて手続きにかなりの労力を要する可能性が非常に高いです。

今回は、日本で暮らす外国人の方が日本で遺言を作成する場合の注意点とメリットについてお話をしていきたいと思います。

1.外国人による遺言作成の注意点
外国人の方も日本で遺言を作成することは可能ですが、注意点として
①「どの国の法律に従った方式で作成をするか」
②「遺言の成立・効力についてはどの国の法律で判断されるか」
の2つがあります。

①については、自分が国籍を有する国の方式や日本の方式で遺言を作成することが可能とされています。
日本に所有している財産の相続については、日本の方式で作成をしたほうが手続きがスムーズなため、日本の方式での作成がおすすめです。
自筆で作成することももちろん可能ですが、検認の手続きの際に法定相続人へ通知を行う都合上、相続人の確定作業が発生してしまいます。
外国人の方の場合、この相続人の確定作業に非常に手間がかかる場合が多いので、検認が不要かつ内容の不備による無効の可能性の低い公正証書遺言で作成することをおすすめします。

②については、遺言を作成した人の本国法(国籍を有する国の法律)に従うものとされています。
せっかく作成した遺言が無効とされないように、作成する前にしっかりとご自身の本国法の規定を調べることが必要になります。

2.外国人が遺言を作成するメリット
次に外国人の方が遺言を作成するメリットについては、次の3つがあります。

メリット①「法定相続人全員の証明を省略できる。」
注意点①でも触れましたが、法定相続人の確定作業は戸籍のある日本でも手間がかかりますので、戸籍制度のない国の方の相続となるとなおさらです。様々な証明書類を取得することになり、相当な時間と手間を要します。
しかし、遺言(公正証書遺言)があれば、遺言内で指定された人たちの証明書類だけで手続きを進めることが可能になりますので、書類取得の手間をかなり軽減することができるでしょう。

メリット②「遺産分割が不要(相続の準拠法が日本法の場合)」
相続人が海外に住んでいて、遺産分割協議がなかなか進まず、相続手続きが長期間停滞するケースは非常に多く見かけます。
しかし、遺言があれば遺産分割協議を行わなくても済むので、手続きがスムーズに行えます。

メリット③「公的機関、金融機関の理解不足による余計な手間が軽減される。」
遺言がない場合、公的機関、金融機関で手続きを行う際、担当者の国際相続についての知識や経験が足りず、手続きに余計な手間や時間がかかる可能性が非常に高いです。
しかし、遺言があれば、遺言の内容に従えばよいので、担当者が迷う余地を減らすことができます。

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このように、外国人の方が遺言を作成するには注意が必要な点こそありますが、作成するメリットは非常に大きいです。

日本で暮らして築いた大切な財産。
遺された人が手続きに困らずに受け取れるように、遺言を作成しておくことを強くおすすめします。

当事務所の専門家たちも全力でサポートをいたしますので、少しでも興味がありましたらお気軽にご相談ください。

 

条件付き遺言には限界がある

こんにちは。司法書士の竹下です。

前回のコラムで、遺言の内容には条件づけができることをご紹介しました。しかし、どんな条件でも有効になるわけではありません。
また、条件の内容によっては無用な争いを生じさせてしまうこともあります。

今回は、条件付き遺言の注意点や限界についてご紹介します。

◆ 限界その1【身分関係に関する行為】

認知や婚姻、養子縁組といった、法律上の身分関係に関する行為には、条件を付けることが認められていません。

たとえば、配偶者以外の女性との間に生まれた子は遺言によって認知することができますが、下記のように婚姻していることを条件とするような場合には無効となります。

<無効になる遺言例>
「相続開始時に○○太郎の母である○○花子が婚姻していなかった場合には○○太郎を遺言者の子として認知する。」


◆ 限界その2【曖昧な条件】

条件の内容が曖昧で条件が成立したのか客観的に判断できないような場合、相続人間で遺言の解釈を巡って紛争が生じるおそれがあります。したがって、そのような条件付けは避けるべきです。
下記の例の場合、「経済的に困窮していた」という表現は解釈に幅がありますので、「生活保護を受給していた場合」など明確にしたほうがいいでしょう。

<無効になる遺言例>
「相続人Aが相続開始時に経済的に困窮していた場合、他の相続人に先駆けてAに1000万円を相続させ、残りの預貯金を相続人A、B、Cの3人に3分の1ずつ相続させる。」

 

◆ 限界その3【容易にコントロールできる条件】

遺産を承継させた後、承継者が死亡した後の財産の行き先を指定したいというご相談をいただくことがあります。
このような場合、次のような遺言を作成することは不可能ではありません。

<問題となる遺言例>
「遺言者は、遺言者の配偶者Xが、Xの全財産を遺言者の甥であるYに相続させるという内容の公正証書遺言を遺言者の相続開始後6か月以内に作成した場合には、遺言者の全財産をXに相続させる。」

この遺言は、一見問題がないように思えますが、以前にご紹介した「相続人の婚姻」や「相続人の大学入学」といった条件に比べて成立が容易であるうえ、あとで簡単に撤回できてしまう点が問題となりうるのです。

たとえば、Xはいったん条件どおりの遺言を作成して財産を取得した後に、遺言の内容を「全財産をZに遺贈する」と変更してしまうことができます。
これでは、遺言者の当初の希望は実現できません。

 

◆ 限界その4【後継ぎ遺贈】

「後継ぎ遺贈」とは、下記のように遺言の効力が発生した後に遺産を譲り受けた人が死亡した場合に、遺言者の指定する人に、遺産を与えるとする内容の遺贈のことです。

<後継ぎ遺贈の遺言例>
「○○の土地は配偶者Aに相続させるが、遺言の効力が発生した後にAが死亡した場合は、弟の長男であるBに遺贈させる。」

後継ぎ遺贈の効力については論点ですが、「無効」とする考え方が一般的です。
その理由は、上記の例では配偶者Aの財産を自由に使える権利を侵害するためといわれています。

その3の事例にある「負担付遺贈」という条件がついているだけで問題ないと考える余地もあるのですが、無効と解釈される可能性が高いので、遺言としては避けたほうがよろしいでしょう。

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条件付き遺言の限界についてご紹介してきましたが、最後の事例のように財産の行き先をコントロールしたい場合は、「信託」という手段があります。

こちらは遺言に比べると手続きが複雑ではありますが、かなり自由に財産のコントロールができるようになります。
「信託」については、いずれ別の機会にご紹介いたします。

遺言に条件を付ける際には内容を慎重に吟味する必要があり、専門的な知識が求められます。
遺言の作成で疑問をお持ちの際には、ぜひ当事務所までご連絡ください。

遺言に条件をつけられる?

こんにちは 司法書士の竹下です。

遺言作成のご相談を受ける際に、遺言の内容に条件や期限をつけることが可能なのか?というご質問をいただくことがあります。

答えは「イエス」です。

では、どのような条件や期限のついた遺言が、どのような場面で活用できるのでしょうか。
今回は活用例をご紹介したいと思います。

【甥っ子姪っ子に不動産を遺贈したい】

Aさんは複数の不動産を所有しています。しかし、Aさんには子どもがいません。
そこで、将来的に不動産は、亡き弟の長男、つまりAさんから見たら甥のBさんに遺贈したいと考えています。
ただ、弟にはBさんのほか長女のCさんもいます。もしもCさんが結婚して実家を出ていたら、Cさんが自分の家を建てるときの敷地として使ってもらえるよう、不動産の一部をCさんにもあげたいと考えています。

このような場合には、Cさんの婚姻を条件として遺贈をする内容の遺言を作成できます。
ただし、期限を決めないといつまでも権利関係が確定しませんので、時期的な制限も設定しておくとよいでしょう。

遺言書の文案は次のようになります。
「遺言者は、遺言者の弟の長女Cが20✖✖年までに婚姻した場合は下記の不動産をCに遺贈する。この条件が満たされなかった場合には下記の不動産は遺言者の弟の長男Bに遺贈する。」


【孫に学費を援助したい】

Xさんには3人の孫がいます。
そのうち2人はすでに大学を卒業しています。Xさんは2人の在学中、学費を援助していました。
ですので、一番年下の孫であるYさんが大学に進学したら、同じように学費を援助したいと考えています。しかし、Xさんの年齢的にYさんの大学卒業を見届けることができるかわからない状況です。

このような場合には、大学への入学を条件として、卒業までの間だけ定期的に遺贈をすることが可能です。

遺言書の案文は次のようになります。
「遺言者は、遺言者の孫であるYが相続開始時に大学に在学中であるか相続開始後20歳までに大学に入学した場合、Yに対し大学を卒業するまで毎月10万円を遺贈する。なお、Yが大学を中退した場合には遺贈は停止するものとする。」

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遺言は作成から効力の発生までに間が空きますので、財産を残したい相手の相続開始時の状況を完全に予測することは困難です。
しかし、遺言に条件や期限を設定することで、相続の開始時の状況に応じて柔軟に財産承継が可能となるのです。

ただし、どんな条件でもつければよいというわけではありません。
次回は、無効になってしまう例をご紹介します。

当事務所では遺言書作成をはじめとして、相続対策や認知症対策についてのご相談を承っております。
「漠然とした不安はあるけれど、何から準備すればいいかわからない」
そんな方は、当事務所までご連絡ください。

 

 

あなたの想いが伝わる 遺言書の付言事項とは

こんにちは。スタッフの仲田です。

遺言書は、相続のトラブルを防止するためには有効な手段のひとつです。
しかし、相続人の1人に多くの財産を渡すというような内容の遺言書では、かえってその遺言書がもとで家族が揉めてしまい、関係が悪化してしまうようなケースもたくさんあります。

遺言書は「家族に宛てた最後の手紙」といわれますが、実際は、財産の分配方法だけが書かれた遺言書も多く、家族は「手紙を受け取った」と感じることは少ないかもしれません。

先日、相続登記をするためにお預かりした遺言書の最後に、“みんなのおかげで幸せな人生を送ることができました。本当にありがとう という言葉が最後に添えられていました。
私もこんな素敵な言葉が添えられた遺言書を見たのは初めてで、心がじんわりしました。

この方の遺言書のように、家族への感謝の言葉や、遺言書を書いた理由などを添えることによって “あなたの想い” が伝わる、遺言書の「付言事項」についてご紹介します。

【遺言書に記載する事項】

遺言書には、記載することで法的効力が認められる「法定遺言事項」と、記載しても法的効力が認めらない「付言事項」があります。

「法定遺言事項」は、相続分の指定、遺産分割方法の指定など財産の処分・分配に関する事項、子の認知、相続人の廃除など相続人の身分に関する事項で、その書き方は民法によって定められています。

一方、「付言事項」は書き方は自由で、なんでも書くことができます。

しかし、受け取った家族の気持ちを考えずに書いてしまうと、家族の関係を悪化させてしまうこともありますので注意が必要です。

【付言事項として加えることをおすすめする内容】

・家族への感謝の気持ち
・なぜ遺言を作成しようと思ったのかという理由
・どうしてこの配分にしたのかという意図や理由
・葬儀の方法  など

【付言事項の注意点】
・否定的な言葉はあまり書かないようにしましょう。
・あまり多くのことを書くことは避けましょう。
もし、たくさん書きたい場合には手紙を添えたり、別途エンディングノートを利用したりしましょう。
・葬儀の方法などは、葬儀後に遺言書を開くこととなる場合もあります。あらかじめ希望する葬儀の方法については家族に伝えておきましょう。

では、次に具体的な事例を紹介します。

【付言事項の具体例】

1 事業の後継者として長男に財産を多く相続させる場合

長男の太郎は大学卒業後、私とともに家業に従事し、その発展に大きく貢献してくれました。そのおかげで、私も安心して老後を暮らすことができました。そこで、私は太郎に他の兄弟よりも多い遺産を渡すことにしました。
他の兄弟も、太郎が家業に貢献してくれていることは知っていると思いますので、このような遺言を残すことを理解してくれるとうれしいです。私亡き後も家族みんなが仲良く暮らしていくことを心から願っています。

2 遺留分を請求しないでほしい場合

私が亡くなった後も妻には安心して暮らしていってほしいので、妻に自宅不動産と預金の半分を相続してもらうこととしました。
どうか子どもたちは遺留分は請求しないでください。私亡き後もお母さんのことを大切にして、家族仲良く暮らしてください。

3 相続人ではない長男の嫁に遺産の一部を遺贈する場合

私の身体が不自由になってからも長男の嫁の花子さんは懸命に私の介護をしてくれました。私が施設に入らずにずっと自宅で生活ができたのも花子さんのおかげです。私は感謝の意を込め、花子さんに遺産の一部を渡すことにしました。
子どもたちも花子さんの頑張りは十分に承知してくれていると思います。私亡き後に相続のことで揉めることがないよう切に願っています。

4 長女が入所している障害者施設に寄付する場合

私の遺産は妻と長女に相続させるほか、長女が入所している社会福祉法人に遺産の一部を寄付します。障害を持つ長女のことが気掛かりですが、この寄付を有効に活用していただけたら幸いです。社会福祉法人のさらなるご発展を願っています。

5 家族に負担をかけたくないので、葬儀は家族葬にしてもらいたい場合

私は妻の幸子には本当に感謝しています。子どもたちもみんないい子に育ってくれてうれしく思っています。本当にありがとう。
私の葬儀に関しては、家族に負担をかけたくないと思っていますので、家族だけでささやかに済ませてください。
子どもたちは、お母さんのことを最期まで支えてあげてください。いつまでもみんなの幸せを願っています。

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いかがでしょうか。

それぞれの相続人に配慮をしながら付言事項を加えることによって、たとえ遺言の内容に納得がいかない相続人がいたとしても、あなたの想いが伝わり「こんな想いで遺言書を書いたのであれば、その想いを尊重しよう」と納得してもらえるかもしれません。

いざ、あなたの想いを言葉で表現するとなると、どんな書き方をしたらいいか迷うこともあるかもしれません。
数多くの遺言書の作成に携わってきた専門家が、あなたの希望が叶うような遺言書となるようお手伝いをさせていただきます。
ぜひお気軽にご相談ください。

認知症の人でも遺言書は作成できる?!

こんにちは
司法書士の武笠です。

コロナ禍での生活が日常となって以降、遠方に住んでいる家族に気軽に会うことも難しくなってしまいました。
中には久しぶりに実家に帰り、自分の親に会ったら「あれ? 物忘れが前よりも酷くなっている?」なんて感じた方もいるようです。
実際に自粛生活が続き、外出できず、周りとのコミュニケーションも減ったことで、認知症の発症や進行を招いてしまう危険もあるといわれています。

認知症の症状が出てきて、初めて家族で相続ついて考え始めたという方もいるかもしれません。
今日は認知症になった人が有効な遺言を作ることができるのかということについてお話ししていきます。

結論からいうと、有効な遺言を作成できるかどうかは、その人の認知症の症状、程度によります

なんともあいまいな答えになってしまいましたが、認知症になったからといって、ただちに遺言の作成ができなくなるわけではありません。

遺言が有効だと認められるためには、遺言の内容を理解し、遺言に基づく効果を認識できる能力が必要です。これを遺言能力といいます。
もしも遺言能力がなければ、せっかく作った遺言は無効だと判断され、意味のないものになってしまいます。

認知症の人に遺言能力があるかどうかは、遺言作成時の精神障害の程度や、遺言の内容が複雑か簡単か、遺言を作成するに至った動機が自然なものであるかなど、さまざまな要素を総合して判断されます。
これらを考慮して遺言能力があると認められれば、認知症の方でも有効な遺言を作成することができる場合があります。

なお、成年被後見人になっている場合はより厳しくなります。
遺言を作成するための能力が一時回復した状態であり、医師2名以上の立会のもと、作成時に遺言を作成する能力を有していた旨を遺言に付記してこれに署名捺印することが必要です。

また、将来の争いを防ぐために以下のような点を注意しておくことも大切です。

①自筆証書遺言ではなく公正証書遺言で作成する
②医師の立会を求め、診断書などの医学的証拠を残しておく
③録音、録画などで遺言作成時の状況を再現できるようにしておく
④遺言作成に至った動機、経緯を付言に残しておく
⑤認知症の程度に合った遺言内容にする、複雑にしすぎない

ここまで、認知症の人でも有効な遺言を作成できる場合があるという話をしましたが、たとえ遺言を作成できたとしても認知症を理由に無効を求め、相続人間で争いになるケースもあります。
そうならないために、元気なうちに遺言を作成することが大切です。
相続対策を行うのに早すぎるということはありません。

コロナ禍でなかなか家族で頻繁に集まることが難しい今だからこそ、状況が落ち着いて顔を合わせることができたら将来について話してみるものいいかもしれません。
当事務所でも遺言作成のサポートを行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

耳、目、口の不自由な方が遺言を作成する方法

こんにちは
スタッフの仲田です。

遺言書の作成を考える年齢になると、字が書けない方、言葉を発することが難しい方、また言葉が聞き取りにくい方、目が見えない方など身体上に不自由が生じている方も多く、自分は遺言書を書けないのではないかとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

先日も、脳梗塞を患い利き手が不自由となってしまった方から、「字を書くことができないのですが、遺言書を書くことはできますか?」という質問をいただきました。

遺言書の作成方法には自筆証書公正証書という2つの方法があります。

自筆証書遺言は、財産目録を除いて遺言者が自分で全文を書かなければなりませんので、書くことが難しい方は残念ながら自筆証書では遺言を作成することができません。
しかし、法律の専門家のもとで作成される公正証書遺言でしたら、身体上に不自由が生じ、ご自身の意思を伝えることが難しい方でも、代替の方法で遺言書を作成することができます。

では、公正証書遺言の作成手順に沿って、作成にあたって身体上の不自由が問題となる点はないのか確認しましょう。

【公正証書遺言の作成手順】
公正証書遺言は、公証人役場において、2人以上の証人立会いのもとに次のような順序で作成が進められます。(公証人役場に出向くことが難しい場合には、別に費用がかかりますが、ご自宅、介護施設や病院など遺言作成者がいる場所に公証人が出張することもできます)

① 遺言者が遺言の趣旨を公証人に「口頭で伝える」
② 公証人が、遺言者が「口頭で伝えた」遺言内容を筆記する
③ 公証人が遺言者と証人に遺言内容を「読み聞かせる」
④ 筆記の内容が正確であれば、遺言書に「署名捺印を行う」

「口頭で伝える」、「読み聞かせる」、「署名捺印を行う」ことが難しい人は、公正証書遺言を作成することはできないのではないのか、と不安に思われたかもしれません。

ご安心ください!
どのような方法で作成したのかを遺言書に付記することによって、公正証書遺言の作成が可能になるのです。

「話すことができない」場合
遺言内容を口頭で伝えることが難しい場合は、遺言の内容を通訳人の通訳により口述する方式、または公証人と筆談する方式いずれかを選択し、公証人がその旨を遺言書に記載します。

「耳が聞こえない」場合
公証人の読み聞かせが難しい場合は、通訳人の通訳によるという方式、または閲覧で済ませるという方式、いずれかを選択し、公証人がその旨を記載します。

「字を書くことができない」場合
署名、捺印を行うことが難しい場合は、前もって公証人に、ケガや病気により署名が難しい旨を伝えておけば、公証人がその事由を記載して遺言者に代わって代署、代印することにより可能となります。

「目が見えない」場合
目が見えない場合は、遺言内容を口頭で伝えることはできますし、また公証人の読み聞かせもできますので問題はありません。
字が書けない方と同様に、署名、捺印が難しくなりますが、公証人がその事由を記載して遺言者に代わって公証人が代署、代印することにより可能となります。

話すことができない人、耳が聞こえない人には通訳人が必要となる場合があります。通訳人は、手話通訳士の資格など特定の資格を有する人でなくても、遺言者の意思を公証人に伝えることができる人であれば構いません。
なお、通訳人は遺言者が選任することが原則ですが、公証人に依頼して公証人が選んだ通訳人のほうが、手続きが円滑に進む場合は公証人が選任することもあります。

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以上みてきましたように、身体上に不自由が生じている方も、個々の事情を考慮しながら、公証人と方法を検討し、公正証書遺言の作成が可能です。
ぜひ、公正証書遺言の作成を検討されてはいかがでしょうか。

当事務所はさまざまな事情を抱えている方の遺言書に関する相談を承っております。
お気軽にご相談ください。

相続人以外の人に財産を残すには?

スタッフの武笠です。

先日お客様から、「自分には身寄りがないので、亡くなった後の財産を友人に残したいのですができるのでしょうか」という声を聞く機会がありました。

家族関係が多様になっている現代において、内縁の妻や、義理の娘や息子など、相続人以外の人へ財産を残したいと考える人が増えてきています。
また、近年独身の高齢者が増えています。
特にお子さんがいない方の中には、自分が亡くなった後の財産を遠い親戚に残すより、お世話になった知人に残したいと考える方もいらっしゃるようです。

相続人以外の人に財産を渡すことはできるのでしょうか?

亡くなった人から財産を受け継ぐことができる人は民法で定められているため、何も対策せずに亡くなった場合は、相続人のみが財産を受け継ぐことができます。
しかし、遺贈をすることにより、相続人以外の人へも財産を残すことができるようになります。「遺贈」とは、遺言書により遺言者の財産を譲渡することをいいます。
つまり、遺言書を作成しておけば、相続人以外の人へも財産を残すことができるというわけです。

では、どのような場面で遺言書が活用できるのか、2つのケースを見ていきましょう。

◆ケース1 内縁の妻に財産を残したい
Aさんには長年連れ添ってきたBさんがいます。2人は婚姻届けを提出しておらず、AさんにとってBさんは内縁の妻になります。2人の間には子供はなく、Aさんの両親はすでに他界、弟のCさんがいます。
Aさんは自分が亡くなった後、財産を内縁の妻Bさんに残したいと考えていますが、Bさんは相続人ではないため、何も対策を取っていなければ、Aさんの弟Cさんが相続人として財産を取得することになります。
このケースでは、Aさんは遺言書を作成することで、Bさんのみに財産を残すことができます。

◆ケース2 お世話になった知人に財産を残したい
Aさんは未婚で子どももいません。両親と兄弟はすでに他界しており、相続人は弟Bさんの子、つまり甥のCさんとDさんのみです。しかし、AさんとBさんの仲は良好ではなく、さらに遠方に住んでいたこともあり、AさんはCさんともDさんともほとんど面識がありません。
Aさんは自分が亡くなった後、自分の財産がほとんど縁のないCさんとDさんに渡るより、長年お世話になった知人Eさんに残したいと考えています。Eさんは相続人ではないため、Aさんが何も対策をしていなければ、相続人であるCさんとDさんに財産が渡ります。
このケースでは、Aさんが遺言書を作成することで、Eさんのみに財産を残すことができます。

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以上のようなケースでは遺言書を作成することがとても有効です。
ただし、遺言書には、書き方や様式に決まりがありますので、注意が必要です。
もしも相続人以外に財産を残したいけどどうしよう……とお考えの方がいらっしゃったら、遺言書を作成することを検討してみるのもいいかもしれません。

当事務所では遺言書作成のサポートを行っています。
このようなお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

自筆遺言の落とし穴 ~せっかく書いたのに… 残念な遺言書~

司法書士の岩倉です。

「終活」という言葉が最初に使われ出したのは、2009年のある雑誌のコラムからだそうです。
かれこれ10年以上経ちましたから、年齢を重ねた方は、一度はご自身の「終活」について考えた人も多いのではないでしょうか。雑誌などの書籍、テレビ番組等でもたびたび取り上げられています。

その影響でしょうか。最近、自筆での遺言書をよく見かけるようになりました。
私は司法書士として仕事を始めてから10年になりますが、ここ1、2年で特に感じられます。自分事として「終活」を行った人が増えた結果なんでしょうね。

先日、司法書士の松永から、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについてご紹介しましたが、自筆証書遺言とは「自筆」という言葉どおり、すべてご自身で書いた遺言です。
その書きぶり、筆跡などで、一生懸命書いてくださったんだろうな、ということが伝わります。
自筆遺言として有効となるために、必要な日付、署名が記され、捺印もしっかりされています。
書籍などを参考にされているのか、「全財産を○○○○に相続させる」といったような、シンプルなものでなく、不動産やその他の財産について細かく記載されているものもあります。

遺言書は、その方の遺した最後の手紙です。
しかも大事な財産の引継ぎ先が書いてあるものです。その指定どおりに、相続人たちに渡して差し上げるのが私たちの仕事でもあります。
ゆえに、「残念な遺言書」を目にすると、切ない気持ちになります。
そして、その「残念な遺言書」が意外と多いのです。
「残念な遺言書」とは、言葉が足りない、または余分だったために、財産の引継ぎ先がわからない(特定できない)遺言です。

普通の手紙であれば、行間を読むなどして、この人はこう書きたかったんだろうと読み取れるものでも、遺言書となるとそうはいきません。
誰が読んでも間違いなく、どの人にどの財産がいくのか特定されなくてはならないのです。

1つ例を挙げましょう。

◆残念な遺言書の例 
この方は、財産を次のように記載していました。

「私の財産(不動産、動産)は全てAに相続させる」
 
不動産については、そのとおりに、Aさん(奥様)へ名義変更を行うことができました。
ところが「動産」。こちらが残念な言葉になっていました。
銀行が預金の解約手続きに応じてくれなかったのです。

書いた本人はおそらくすべての財産を奥様へ遺したかったのでしょうが、預金は厳密にいうと「動産」ではなく、「債権」なのです。
銀行の対応が冷たいように思われるかもしれませんが、他の相続人からその点を指摘されることも考えられますので、当然の判断といえるでしょう。

結果的に、Aさんはほかの相続人(10名近くいました)に交渉し、その方たちから同意の署名・捺印(実印)をもらって、解約手続きを終えました。
今回の場合は相続人の方々がいい方ばかりでしたので、最終的に自筆遺言どおりにAさんがすべて預金をもらうことができましたが、交渉する手間や時間にさぞ心を砕いたことでしょう。
それに、相続人たちが自身の相続分を主張することも十分に考えられますから、いかに遺言が大切なものかがわかります。

このほかにも「残念な遺言書」となってしまう書き方があります。
次回もいくつかご紹介しましょう。