岩倉 祐子のブログ

自筆遺言の落とし穴② ~せっかく書いたのに… 残念な遺言書~

こんにちは。司法書士の岩倉です。

前回に引き続き、「残念な遺言書」となってしまった例を紹介したいと思います。

まず、皆さんに質問です。
「今住んでいるご自宅の、底地の番号ってご存知ですか?」

私たちが普段、いろいろな場面で記載する「住所」、実はこれとは別に、「地番」といって、土地にも役所(国)から指定された番号があるのです。

不動産の仕事をしている人にとっては、この「地番」は馴染みのあるものですが、そうでない人が「地番」を認識し、何かの書面に書くということはほぼありません。
ですから、先ほどの質問に正確に答えられる方はほとんどいらっしゃらないと思います。
というのも以下の2つの理由があるからです。

①「住所」と「地番」では、番号が異なる場合がある
例)同じ場所でも
「住所」・・〇〇市〇〇町3丁目2番1号
「地番」・・〇〇市〇〇町字〇〇100番1

②「住所」は1つですが、「地番」は複数あることがある

①の「住所」と「地番」が異なる場合とは、役所によって「住所」の記載が、「住居表示」されたことで、「地番」と異なる番号が割り当てられた場合です。
1960年代から「住居表示」された「住所」が登場します。
それ以前は、「地番」がそのまま「住所」だったのですが、1つの土地を分裂させたり、複数の土地を1つにするなどした結果、整然と番号をつけていくのが難しくなり、隣り合った土地でも番号が離れてしまった「住所」が生じていました。
そこで、これを解消すべく、役所が新たに番号を付したのです。

この「住所」と「地番」の違いがわからない方が書く遺言は、次のとおりとなります。

「〇〇市〇〇町3丁目2番1号の土地は、妻に相続させる」

少し、残念な遺言書です。
地番は「〇〇市〇〇町字〇〇100番1」ですからね。
ただ、地図で確認するなどして、これが同じ土地であることが特定できるのであれば、登記できることもあります。

ですが、上記理由②の場合、「地番」が複数ある場合はどうでしょうか。
「地番」が複数ある、というと誤解があるかもしれません。1つの土地に割り当てられる番号はあくまでも1つです。
複数、というのは、土地自体が複数あるのです。
一見、家の建っている底地が広い1つの土地のようでも、分裂していて複数の土地になっていることがあるのです(結構多いんです)。

先ほどの遺言で特定できない土地は、妻に相続させることはできません。
とても残念な遺言書です。実際にそのような例がありました。

お手元にご自身で書いた遺言書がある方、いかがですか?
残念な遺言書になっていませんか?

私ども、司法書士法人つかさでは、すでに記載いただいた遺言書のチェックも行っています。
もちろん、これから遺言書を作成したい方のサポートもしています。

せっかく書いた遺言書が無効になってしまわないよう、正しい「終活」をしたいですね。
お手伝いさせていただきますので、ぜひお問い合わせください。

 

 

 

 

 

自筆遺言の落とし穴 ~せっかく書いたのに… 残念な遺言書~

司法書士の岩倉です。

「終活」という言葉が最初に使われ出したのは、2009年のある雑誌のコラムからだそうです。
かれこれ10年以上経ちましたから、年齢を重ねた方は、一度はご自身の「終活」について考えた人も多いのではないでしょうか。雑誌などの書籍、テレビ番組等でもたびたび取り上げられています。

その影響でしょうか。最近、自筆での遺言書をよく見かけるようになりました。
私は司法書士として仕事を始めてから10年になりますが、ここ1、2年で特に感じられます。自分事として「終活」を行った人が増えた結果なんでしょうね。

先日、司法書士の松永から、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについてご紹介しましたが、自筆証書遺言とは「自筆」という言葉どおり、すべてご自身で書いた遺言です。
その書きぶり、筆跡などで、一生懸命書いてくださったんだろうな、ということが伝わります。
自筆遺言として有効となるために、必要な日付、署名が記され、捺印もしっかりされています。
書籍などを参考にされているのか、「全財産を○○○○に相続させる」といったような、シンプルなものでなく、不動産やその他の財産について細かく記載されているものもあります。

遺言書は、その方の遺した最後の手紙です。
しかも大事な財産の引継ぎ先が書いてあるものです。その指定どおりに、相続人たちに渡して差し上げるのが私たちの仕事でもあります。
ゆえに、「残念な遺言書」を目にすると、切ない気持ちになります。
そして、その「残念な遺言書」が意外と多いのです。
「残念な遺言書」とは、言葉が足りない、または余分だったために、財産の引継ぎ先がわからない(特定できない)遺言です。

普通の手紙であれば、行間を読むなどして、この人はこう書きたかったんだろうと読み取れるものでも、遺言書となるとそうはいきません。
誰が読んでも間違いなく、どの人にどの財産がいくのか特定されなくてはならないのです。

1つ例を挙げましょう。

◆残念な遺言書の例 
この方は、財産を次のように記載していました。

「私の財産(不動産、動産)は全てAに相続させる」
 
不動産については、そのとおりに、Aさん(奥様)へ名義変更を行うことができました。
ところが「動産」。こちらが残念な言葉になっていました。
銀行が預金の解約手続きに応じてくれなかったのです。

書いた本人はおそらくすべての財産を奥様へ遺したかったのでしょうが、預金は厳密にいうと「動産」ではなく、「債権」なのです。
銀行の対応が冷たいように思われるかもしれませんが、他の相続人からその点を指摘されることも考えられますので、当然の判断といえるでしょう。

結果的に、Aさんはほかの相続人(10名近くいました)に交渉し、その方たちから同意の署名・捺印(実印)をもらって、解約手続きを終えました。
今回の場合は相続人の方々がいい方ばかりでしたので、最終的に自筆遺言どおりにAさんがすべて預金をもらうことができましたが、交渉する手間や時間にさぞ心を砕いたことでしょう。
それに、相続人たちが自身の相続分を主張することも十分に考えられますから、いかに遺言が大切なものかがわかります。

このほかにも「残念な遺言書」となってしまう書き方があります。
次回もいくつかご紹介しましょう。