条件付き遺言には限界がある

こんにちは。司法書士の竹下です。

前回のコラムで、遺言の内容には条件づけができることをご紹介しました。しかし、どんな条件でも有効になるわけではありません。
また、条件の内容によっては無用な争いを生じさせてしまうこともあります。

今回は、条件付き遺言の注意点や限界についてご紹介します。

◆ 限界その1【身分関係に関する行為】

認知や婚姻、養子縁組といった、法律上の身分関係に関する行為には、条件を付けることが認められていません。

たとえば、配偶者以外の女性との間に生まれた子は遺言によって認知することができますが、下記のように婚姻していることを条件とするような場合には無効となります。

<無効になる遺言例>
「相続開始時に○○太郎の母である○○花子が婚姻していなかった場合には○○太郎を遺言者の子として認知する。」


◆ 限界その2【曖昧な条件】

条件の内容が曖昧で条件が成立したのか客観的に判断できないような場合、相続人間で遺言の解釈を巡って紛争が生じるおそれがあります。したがって、そのような条件付けは避けるべきです。
下記の例の場合、「経済的に困窮していた」という表現は解釈に幅がありますので、「生活保護を受給していた場合」など明確にしたほうがいいでしょう。

<無効になる遺言例>
「相続人Aが相続開始時に経済的に困窮していた場合、他の相続人に先駆けてAに1000万円を相続させ、残りの預貯金を相続人A、B、Cの3人に3分の1ずつ相続させる。」

 

◆ 限界その3【容易にコントロールできる条件】

遺産を承継させた後、承継者が死亡した後の財産の行き先を指定したいというご相談をいただくことがあります。
このような場合、次のような遺言を作成することは不可能ではありません。

<問題となる遺言例>
「遺言者は、遺言者の配偶者Xが、Xの全財産を遺言者の甥であるYに相続させるという内容の公正証書遺言を遺言者の相続開始後6か月以内に作成した場合には、遺言者の全財産をXに相続させる。」

この遺言は、一見問題がないように思えますが、以前にご紹介した「相続人の婚姻」や「相続人の大学入学」といった条件に比べて成立が容易であるうえ、あとで簡単に撤回できてしまう点が問題となりうるのです。

たとえば、Xはいったん条件どおりの遺言を作成して財産を取得した後に、遺言の内容を「全財産をZに遺贈する」と変更してしまうことができます。
これでは、遺言者の当初の希望は実現できません。

 

◆ 限界その4【後継ぎ遺贈】

「後継ぎ遺贈」とは、下記のように遺言の効力が発生した後に遺産を譲り受けた人が死亡した場合に、遺言者の指定する人に、遺産を与えるとする内容の遺贈のことです。

<後継ぎ遺贈の遺言例>
「○○の土地は配偶者Aに相続させるが、遺言の効力が発生した後にAが死亡した場合は、弟の長男であるBに遺贈させる。」

後継ぎ遺贈の効力については論点ですが、「無効」とする考え方が一般的です。
その理由は、上記の例では配偶者Aの財産を自由に使える権利を侵害するためといわれています。

その3の事例にある「負担付遺贈」という条件がついているだけで問題ないと考える余地もあるのですが、無効と解釈される可能性が高いので、遺言としては避けたほうがよろしいでしょう。

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条件付き遺言の限界についてご紹介してきましたが、最後の事例のように財産の行き先をコントロールしたい場合は、「信託」という手段があります。

こちらは遺言に比べると手続きが複雑ではありますが、かなり自由に財産のコントロールができるようになります。
「信託」については、いずれ別の機会にご紹介いたします。

遺言に条件を付ける際には内容を慎重に吟味する必要があり、専門的な知識が求められます。
遺言の作成で疑問をお持ちの際には、ぜひ当事務所までご連絡ください。